演奏前に私は指揮台の上に立ち、まず生徒達に向かって笑顔を見せ、リラックスさせます。そしておもむろに胸に手をやって人差し指を立てました。
「心をひとつに。」
前の日に私が生徒に覚えさせた、私の演奏前のパフォーマンスです。
そして、おもむろに私は指揮を振り始め、演奏は始まりました。一生懸命練習して、音楽室や体育館で鳴り響いた楽曲が、今日は大きなホールの舞台の上で鳴り響いています。その時間が長かったような、短かったような。
演奏が終わった後は記念写真撮影があります。全体の集合写真とパートごとの写真、3年生だけの写真と、記念撮影は進んでいきます。生徒達は演奏が終わってほっとしているのかテンションがとても高く、みんなでキャーキャー言いながら写真撮影をされていました。私はこのときすでに、気持ちのひっかかりがありました。演奏中にいくつかのミスがあったからです。直接演奏には関係ないミスだったので、審査には影響しないとは思いましたが、気が気ではありません。
その後、楽器を運送店のトラックに積み込み、一足先にバイクで学校に向かいました。学校でトラックから楽器を降ろすためです。生徒達はホールで他の学校の演奏を聴きながら審査発表までの時間を過ごしています。その時間を利用して、楽器を学校へ運ぶ作戦なのです。
学校に着くと、少し遅れてトラックも到着。職員室にいた先生に手伝ってもらって、楽器を1階のトラックから近い部屋に運びました。その間、なぜか気持ちのもやもやがずっと続いています。楽器を降ろした後、コンビニで買った弁当を職員室で食べ、休憩する間もなくバイクで帰りの引率の下車駅まで向かい、そこから電車でホールまで戻りました。バイクを下車駅で停めたのは、引率後すぐに帰宅して、釣行準備をしなければならないからです。ただ、電車に乗ったのが遅く、ホール到着が審査発表の時間ぎりぎりになりそうです。どんな発表でも受け止めるつもりではいましたが、その瞬間だけは立ち会っておかなければなりません。
電車に乗っている間、ずっと演奏のことを考えていました。
「あの部分の指揮を、もっとこうすれば、ああすれば・・・・」
考えれば考えるほど、不思議なくらいにネガティブになって、後悔の文字が浮かび上がります。舞い上がっていたのは自分自身ではないのか、そんなことさえ考えました。おそらく金賞は無理だろうな、そうも思い始めていました。
ホールに到着すると、すでに審査発表が始まっていました。ぎりぎり私の学校の発表には間に合ったみたいです。私は座席に座る時間もなく、観客席の一番入口寄りの通路で審査発表を聞くことにしました。生徒達は観客席に座っているようです。
「○番 ○○市立○○中学校 銀賞。」
「△番 ○○○市立○○中学校 銅賞。」
こんな感じで発表されていきます。
実は、私の学校の直前に演奏した学校が、待機する舞台袖で聴いていてとても上手で、間違いなく金賞を取ると思っていました。ところが、あろうことかその学校は銀賞。瞬間私は、自分の学校の金賞をあきらめました。
そして、私の学校の番。
「○番 ○○○市立○○中学校 金賞 ゴールド!」
え?!
一瞬耳を疑いました。
金賞?!
前の学校が銀なのに、なぜ私の学校が?!
気がつくと、観客席に座っている私の学校の生徒から、大歓声が上がっていました。その声を聞いて、ようやく金賞の実感が湧いてきました。
今年のコンクール練習では、私なりに考えた独自の練習方法を2~3取り入れました。その練習方法が効を奏したのか、よく考えると本番の演奏は他のミスはあったもののほぼ理想通りのものでした。「金賞」がわかってからよく思い出してみると、演奏自体にはミスはほぼなく、何を自信なく過ごしてたんやろ?なんて、苦笑いが浮かんだほどです。ですが、ここ何年も金賞から遠ざかっていて、自分自身の指導方法が果たして良かったのか、なんてずっと思っていたものですから、ついつい自信なげな考え方になってしまうんですね。
ホールを出ると、舞台で賞状とトロフィーを授与されたキャプテンが待っていました。顔にはややこわばった笑顔が浮かんでいます。
「おめでとう。」
と言って握手をすると、途端にキャプテンは泣き崩れてしまいました。よほど緊張していたのと、よほど嬉しかったんでしょう。続いてホールから出てきた生徒達も、皆泣き顔でクチャクチャになっていました。
先日私は、「生徒の喜ぶ顔が見てみたい。」なんて書きましたが、こんな感じに喜びを表現するとは思ってもなく、私までなんだか泣けてきたのを覚えています。
解散の駅の前にある広場で生徒を集合させ、私は生徒達に言いました。今回の結果はうれしいものになったけれど、この結果を次の学年が受け継いでいかないといけない。この先もさらに練習や!と。
最近は自分自身クラブ運営に疲れていて、もうそろそろクラブ顧問も引退なのかな、なんて思い始めていましたが、これでまた来年も頑張らなければならなくなりました。1年ぽっきりで良い結果を途絶えさせるわけにはいきません。この時期、釣りとクラブの両立は難しいですが、来年の今頃もきっと、釣り禁止でクラブ指導を頑張っていることでしょう。
「熱中できることがあるんはええことですよ。」
若い先生は私にそう言ってくれました。確かにその通りかもしれませんね。吹奏楽がなければ、夏休みの前半はきっと、無味乾燥なものになっていることでしょう。吹奏楽のおかげで、私は頑張れているのかもしれない・・・・
仕方がない。来年もまた指揮台の上で、指揮振りますわ(笑)
PS 2つのクラブを運営するのは大変・・・・(笑)
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